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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(四)城の絵図面

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(四)城の絵図面(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 139,179 字 · 280 頁

青空文庫

――平次はお常と夫婦約束をしたそうだ――

という噂がボツボツ聞えて来る有様でした。

ある晩――。

平次は相変らずの上機嫌で、亥刻(十時)過ぎにお常の茶屋を飛出しました。

「親分、今からお帰りですか」

「なアに、一と飛びだ、心配するなってことよ」

門口まで送って出たお常の首っ玉にギュッと齧り付くと、

「あれッ」

「静かにしろよ、お常坊」

娘の頬へ、酒臭い唇を持って行きました。

闇の中に光る眼――。

平次はそれを感ずると、フッと離れて、

「お常坊、いいかえ、綱吉殺しの下手人は俺が請合って縛ってみせる。その上で話をつけるから、待っているんだよ」

言い捨てて神明前の往来へ飛出しました。

三島町の角を、御成門の方へ、今の赤十字本社のある増上寺の学寮の前まで来ると、後ろからヒタヒタと跟けて来るらしい足音が聞えます。大抵の人には気が付かなかったでしょうが、耳の良い平次には、手に取るごとくそれが解ります。

後ろを振り返ってみようかという、恐ろしい誘惑を感じますが、振り返ったら最後、一切の献立は打ち壊しです。それに、振り返ってみたところで、恐ろしい闇、街灯もネオンサインもない時代で、後を跟けてる人間などがわかる道理もありません。