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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
七、八年前だったか、一度軍隊がやってきたことがあった。思い出してもゾッとする。山岳戦の訓練とか号して、ところもあろうに、古来の名山たる、この木曾駒ガ岳へ、伝説ならぬ本物の馬を、何匹となく砲車につけて、強引に追い上げ……一と晩この下も手の駒飼ノ池に、野営を張ったものだ。――イヤ洒落や地口にしては、念が入りすぎているし、あくどすぎる。沿道到るところ、まずは前代未聞とも申すべき狼籍ぶりで、その時うけた山の傷跡は、まだ至って生ま生ましい。われわれに対しても、枯枝どころの沙汰ではなく、生きた手足だろうが、胴体だろうが、情け容赦もあらばこそ、手あたり放題ブッタ切って行った。俺などが眼こぼしに預ったのは、どういう風の吹き廻しか、むしろ不思議と言ってよかろう。この時、非業の最期をとげた仲間は数を知らず、その中には、幾百という歳を重ねた、めでたい高齢者もまじっていた。――もっとも人間同士殺し合うというのだから、たかが偃松なんぞ、物の数ではないのかも知れぬが。
しかしこうした乱暴は、大かたみな近年のことで、それも登山が人間界で、流行の形になってからだ。そこへ例の軍国主義で、一般の登山にまで旗を押し立て、ラッパを吹き、人切り庖丁をふり廻す時代が来たのだから、たまらない。