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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
近代登山も初期の頃は、少数のまじめな学者や芸術家、趣味人などで、これはさすがに、分別もあれば思いやりもあったし、ましてそれ以前ともなると、ここらまで入って来る人間といえば、まず八、九分通り、信心深い山伏か道者たちだったから、俺たち草木にも鳥獣にも、めったな危害など加えぬばかりか、山の神の眷属として、もったいないくらい、あがめ尊んでくれさえしたものだ。
山麓の農民たちが、旱魃に苦しむ際、雨乞いのために、この向うの農ガ池へ、野宿を重ねてお詣りに来る、これはよほど昔からのしきたりらしいが、こうした人々の心がけは申すまでもないとして、たとい猟師のような殺生稼ぎのあらくれ男ですら、山をおそれ、はばかる心は案外強いもので、慎しむ所はつつしむのが、しおらしい。旧幕時代には、藩の山廻り役なども時々やってきたけれど、武士でもその頃の人は、やはり慎しみも嗜なみもあって、山で野放図な事などけっしてしなかった。
こうした気風も、しかし世の移るにつれて、だんだん影が薄れ、昨今では、この辺に白の行衣姿や鈴の音が、ふっつり絶えてしまったように、あの、山をけがすまいとの敬虔な行儀も、まったく地を払って、その代りには、どうだろう、――塵芥は所嫌わずまき散らすワ、草木は面白半分なぶり殺すワ、雷鳥はひっ捕えるワ、岩石は投げとばすワ……いやはや