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「しなゆうき」

支那游記

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《支那游記(「しなゆうき」)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,859 字 · 105 頁

青空文庫

時鴻の次にはいって来たのは、――そう一々書き立てていては、如何に私でもくたびれるから、後は唯その中の二人だけをちょいと紹介しよう。その一人の洛娥と云うのは、貴州の省長王文華と結婚するばかりになっていた所、王が暗殺された為に、今でも芸者をしていると云う、甚薄命な美人だった。これは黒い紋緞子に、匂の好い白蘭花を挿んだきり、全然何も着飾っていない。その年よりも地味ななりが、涼しい瞳の持ち主だけに、如何にも清楚な感じを与えた。もう一人はまだ十二三のおとなしそうな少女である。金の腕環や真珠の首飾りも、この芸者がしているのを見ると、玩具のようにしか思われない。しかも何とかからかわれると、世間一般の処子のように、恥しそうな表情を見せる。それが又不思議な事には、日本人だと失笑に堪えない、天竺と云う名の主人公だった。

これらの美人は順々に、局票へ書いた客の名通り、我々の間に席を占める。が、私が呼んだ筈の、嬌名一代を圧した林黛玉は、容易に姿を現さない。その内に秦楼と云う芸者が、のみかけた紙巻を持ったなり、西皮調の汾河湾とか云う、宛転たる唄をうたい出した。芸者が唄をうたう時には、胡弓に合わせるのが普通らしい。