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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

浜松城の留守居にあった夏目次郎左衛門は、味方の敗亡と聞くと、手勢わずか三十騎ばかりひいて、家康の安危を見とどけようものと、これへ駈けつけて来た。

そして今、これへ来て、家康の勇戦しているすがたを見ると、駒をとび降り、槍を左に持ちかえて駈け寄るなり、

「な、なんたることですッ。常のあなたにも似げない御粗暴。おかえりなさいッ。早、お退きなされい、お城のうちへ」

と、駒の口輪をつかんで、ぎりぎりと後へ廻した。

「離せッ、次郎左でないか。敵軍のまっただ中で、邪げするたわけがあるかッ」

「てまえがたわけなら、あなたは大馬鹿者でいらっしゃる。こんな所で討死なさるほどなら、きょうまでの御苦労などせぬ方がよい。日頃の云いがいもない馬鹿大将ではある。功をたてたいなら後日天下の大事にむかってお立てなさいッ!」

眼に涙をため、口を耳まで裂いて主君をどなりつけると、次郎左は、持っている槍で家康の馬をいやというほど撲りつけた。

譜代の臣や、近習の誰彼のうちにも、ゆうべここを立って、こよいはもう見えない顔がたくさんある。将士の戦死者、三百余、手負いは数も知れなかった。

「無念、無念」