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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

「――あんな中で、どうしてあんなことがお眼にとまっていたろうか?」

と、怪しまれるくらい、彼は細事まで見ていた。

野中三五郎が、特に三日月の杯を頂いたのは、こよい家康が落ちて来る途中、七、八騎の甲州武者が先へ迫って道をふさいだのを、よく奮戦して、血路をひらいたのみか、そのうちの敵の剛勇、長弥九郎の首を打ちとった功によるものだった。

その長弥九郎は、もと徳川家にいて、甲州へ奉公替えした男なので、家康も明らかに記憶していたとみえ、

「この長め、この長め」

家康自身、刃に対ってどなったほど、憎い敵であったから、その首は一倍値うちがあったのである。

松井左近の功は。

きょうの乱軍のなかで、甲州の孕石忠弥という剛の者が、家康にせまって、家康の乗っている馬の尻ッ尾をつかまえた。――家康は竿立ちになった馬の背から、太刀をうしろへ振って、馬の尻ッ尾を切り離した。ために孕石忠弥は仰向けに倒れたが、なお起きあがって槍をつけようとしたせつなを、松井左近が、跳びかかって、討ったのであった。この首も、首帳の三、四番目に値するものだった。

大敗は喫したが、総じて、きょうの戦に遺憾はなかった。