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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁
彼女は夙に美人のきこえがあった。美人が多いといわれる越路の花のうちでも、藩中第一の美人だろうと日頃からいわれていた。
けなげにも父を援けて城内にいたが、父の清左衛門をさがしているまに敵兵に捕まってしまった。
寄手の兵は気が立っている。仮借もなく引っ立ててどこかへ拉して行こうとした。彼女は死にものぐるいに一時は反抗していたが、やがて、
「もうおてむかいはしませんから筆と懐紙を持たせてください。乳母へ一言書きのこせば、どこへでも神妙にまいりますから」
と、哀訴した。
前後をとり囲んだまま、兵が筆紙を持たせてやると、彼女は走り書きに何か書いて、それを下へおいたかと思うせつな、守り刀をぬいて、あッとまわりの者がさけぶまに、自害して果ててしまった。
懐紙は、点々、紅梅をちらしたように染まっていたが、なお鮮らかに乾かぬ墨の痕が読まれた。
世を経なば
よしなき雲も
おほひなむ
いざ入りてまし
山の端の月
難攻不落も、腐る時は腐る。幾万の将兵も、その根幹に精髄をうしなえば、また片々たる落葉の脆さに似てしまう。
越前三十七門の本城はいま最期の炎をあげたが、そのなかに一輪、名もない越路の花だけが薫々たる気を吐いた。