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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

帰れッ」

「左様か」

一鉄は、起ちもせず、

「……浅ましや、なぜ、その血をもって仏光の無限大なるものを護らんか。――おぬしらの護らんという自由とは何? 伝統とは何? それは皆、自己の栄華にだけ都合のよい偽瞞の護符ではないか。もはやそんな護符が通用する世ではないぞ。時勢を直視なさい。眼をふさいで時の潮を邪げる利己心の亡者どもは、春秋の落葉と共に焚殺さるるもぜひあるまい。――尊林坊、その他の法師衆、悔ゆるなよ。ではおさらば」

稲葉一鉄は、下山した。

冬は十二月となった。凩は、枯葉を吹いて、嶺の空を翔けまわる。

朝夕は霜。――折々には、雪まじりの寒風が吹いて来た。

すると、この頃になって、毎夜のように、山には出火が頻々と起った。ゆうべは、横川の大乗院の薪倉から、おとといの夜は、飯室谷の滝見堂から、小火があった。

こよいもまた、まだ宵なのに、中堂の坊舎から、火災が起り、さかんに鐘を鳴らしていた。附近には、大きな堂閣が多いので、法師武者は、消火に必死だった。

真っ赤な空の下に、闇の谷。――叡山の谷々は深い。闇は濃い。

「アハハハ、あの慌てざまは」

「毎夜のことで、寝るまもあるまいて」