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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 頁
光春も、程経てから、やがてそこを出て来た。そして廊下を歩みながら侍部屋へ声をかけた。
小姓までが慌てて彼のあとに従ってその居室へ入った。光春はすぐ料紙と硯を求め、もう書くべき文言は頭のうちに出来ていたものの如く、苦もなく筆を走らせた。
「返書じゃ。これを横川の和尚の使いに持たせて帰せ」
と、侍臣のひとりに渡すと、もうその用件には何の顧念ないように、ほかの家臣を顧みて、
「光秀様には、あれからずっと、御熟睡しておらるるようか?」
と、たずねた。そして、
「御寝所はいとお静かのように窺われまする」
と聞くと、初めて、
「そうか」
と、眉をひらいて、自分もともに心の安まったような顔をした。
十九、二十日、二十一日と、それからの数日を、光秀はなすこともなく、坂本城に過していた。
すでに中国出陣の命をうけている身である。なお多少の余日はあるにしても、一刻もはやく居城の丹波亀山へ帰って、家中に動員を令し、万端の準備をいそぐべきではあるまいか。
「その途中にこうして、幾日も無為においで遊ばしては、いよいよ安土への聞えもよろしくあるまいに」
光春は直言したかった。
しかし光秀の心気を思うと、それも云い出し得ないのである。