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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 頁

青空文庫

沈々と黙し合うことややしばしの後、光秀は唐突に、

「そうだ、こよいのうちにも、先発を出して、亀山の家中の者どもに、はや陣用意を触れさせておこう。左馬介、計ろうておくりゃれ」

と、云い出した。

光春はよろこんで立った。

その夜たちまち並河掃部、村上和泉守、妻木主計、藤田伝五などの将は、一部隊をひきいて、亀山城へいそいで行った。

四更の頃、むくと、光秀は刎ね起きて、臥床のうえに坐っていた。

夢でも見たのか。

或いは、なにかまた、否と思い直してしまったものか。しばらくすると、ふたたび衾を被いで、枕に顔を埋め、努めて眠ろうとしているもののようであった。

霧か、雨か。

湖の波騒か、四明颪しか。

夜もすがら大殿の廂を繞る嵐気が絶えない。枕頭の燭は、風もないのに、ものの気に揺れ、光秀の閉じている瞼のうえにゆらゆら明滅を投げかける。

光秀は寝返りを打った。みじか夜のこの頃とはいえ、彼にはなかなか明けるに遅い夜々であった。――がようやく、そのまま寝息に入ったかに思われたが、ふとまた夜具を掻い退けて、がばと半身を起し、

「於香。於香はいるか」

と小姓部屋へ呼びたてた。

遠くのふすまが辷る。