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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 頁
「勝手にせい」
市松が、背を向けたとき、
「加藤どの。殿が、すぐ来いと、呼んでおられる」
平野権平が来て呼びたてた。
「はいッ」
と、素直に虎之助はその姿へつづいてゆく。
市松はなおあとに立って、甲賀侍の美濃部十郎にはなしかけていた。
「冠山は、日幡よりも宮路山より要害な城と聞く。杉原どのの手勢すら難攻にあぐねているのだ。奇襲するにせよ、よほどな決意でかからぬと不覚をとるぞ」
誰も感心した顔もしない。美濃部も柘植も黙笑して聞いているだけである。市松は手持不沙汰に立ち去った。
虎之助はなかなか君前から帰って来なかった。備中平にはきょうも赤々と陽が落ちかけていた。敵の主城高松城のあたりに薄い炊煙がたちのぼっている。
「いざ。行こう」
虎之助の声がした。片鎌の槍を持って一同のうしろへ来ていた。この槍は、彼が十八歳のとき、鳥取城の搦手で功名をたて、その折、秀吉にねだって拝領した彼のまたなき愛槍であった。
冠山の城は、地勢は嶮、守将は剛、出城として、充分守るに足る資格をそなえていたが、ひとつ欠陥があった。
城中の将が、和を欠いていることである。具体的にいえば、守将林重真の部下黒崎団右衛門と松田九郎兵衛とが、平常から私党を擁して、合戦となるや事ごとに、意見の一致を欠いていることだった。