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めいあん

明暗

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《明暗(めいあん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 322,590 字 · 645 頁

青空文庫

と後から付け足した時は、お延自分でももう時機の後れている事に気がついていた。またやり損なったという苦い感じが彼女の口の先まで湧いて出た。今日こそ夫人の機嫌を取り返してやろうという気込が一度に萎えた。夫人は残酷に見えるほど早く調子を易えて、すぐ岡本に向った。

「岡本さんあなたが外国から帰っていらしってから、もうよっぽどになりますね」

「ええ。何しろ一昔前の事ですからな」

「一昔前って何年頃なの、いったい」

「さよう西暦……」

自然だか偶然だか叔父はもったいぶった考え方をした。

「普仏戦争時分?」

「馬鹿にしちゃいけません。これでもあなたの旦那様を案内して倫敦を連れて歩いて上げた覚があるんだから」

「じゃ巴理で籠城した組じゃないのね」

「冗談じゃない」

三好の洋行談をひとしきりで切り上げた夫人は、すぐ話頭を、それと関係の深い他の方面へ持って行った。自然吉川は岡本の相手にならなければすまなくなった。

「何しろ自動車のできたてで、あれが通ると、みんなふり返って見た時分だったからね」

「うん、あの鈍臭いバスがまだ幅を利かしていた時代だよ」

その鈍臭いバスが、そういう交通機関を自分で利用した記憶のないほかの者にとって、何の思い出にならなかったにも関わらず、当時を回顧する二人の胸には、やっぱり淡い一種の感慨を惹き起すらしく見えた。