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めいあん

明暗

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《明暗(めいあん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 322,590 字 · 645 頁

青空文庫

百七十三

百七十三

寝る前に一風呂浴びるつもりで、下女に案内を頼んだ時、津田は始めて先刻彼女から聴かされたこの家の広さに気がついた。意外な廊下を曲ったり、思いも寄らない階子段を降りたりして、目的の湯壺を眼の前に見出した彼は、実際一人で自分の座敷へ帰れるだろうかと疑った。

風呂場は板と硝子戸でいくつにか仕切られていた。左右に三つずつ向う合せに並んでいる小型な浴槽のほかに、一つ離れて大きいのは、普通の洗湯に比べて倍以上の尺があった。

「これが一番大きくって心持がいいでしょう」と云った下女は、津田のために擦硝子の篏った戸をがらがらと開けてくれた。中には誰もいなかった。湯気が籠るのを防ぐためか、座敷で云えば欄間と云ったような部分にも、やはり硝子戸の設けがあって、半分ほど隙かされたその二枚の間から、冷たい一道の夜気が、袍を脱ぎにかかった津田の身体を、山里らしく襲いに来た。

「ああ寒い」

津田はざぶんと音を立てて湯壺の中へ飛び込んだ。

「ごゆっくり」

戸を閉めて出ようとした下女はいったんこう云った後で、また戻って来た。

「まだ下にもお風呂場がございますから、もしそちらの方がお気に入るようでしたら、どうぞ」