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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁

青空文庫

そう思って近づいてゆくと、殆んど乞食に近い恰好をした、盲目の浪人者が一人、小者たちに左右の手を押えられたまま、狂ったように喚きたてていた。

「わからないのか、おれは妹に会いたいんだ」そして六郎兵衛は歯を剥きだした、「妹を出せ、滝尾を出せ」

「面倒だ、つまみ出してしまえ」

小者たちがそう云うと、六郎兵衛が大喝し、腕を押えていた二人が左右へはねとばされ、そして六郎兵衛は刀を抜いた。抜いた刀身が秋の陽を映して、きらっとするどく光り、玄四郎は声をかけながら近よっていった。

「その人は私が引受けた」と玄四郎は小者たちに云った、「私がよく話すから騒がないでくれ、乱暴はさせない、大丈夫だ」

六郎兵衛はこっちへ向き直った。

彼はひどく変っていた。眼球のない、二つの黒い穴になった眼、使い古した鞣し革のように皺たるんで艶のない皮膚、そぎおとしたように肉のこけた骨張った顔、そうして、白く乾いてひび割れた唇のあいだから、みにくくむき出されている黄色い歯など、まったく見るかげもないという姿になっていた。玄四郎は初めて会うのだが、おみやの話しから想像していた風貌とはあまりに違うので、これが本当に柿崎六郎兵衛だろうかと、ちょっと疑わしくなったくらいであった。