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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
――もう八つになるんだな。
甲斐は盃を持ったまま、感情をひそめたまなざしで、かよの顔をそっと見まもった。かよはつんとした表情で甲斐を見あげた。
「ちゃんと書けていますよ、お父さま」
「そうかな」
「ちゃんと書けてますからね、ほら」
「読んでみよう」甲斐は片手で半紙を取りあげ、そしてゆっくりと読んだ。「――あ、そ、し、ま、か、ず、え」
「ね、違わないでしょ」
「そうかな、あそしまでいいのかな」
「いやだ、お父さま」かよは半紙を甲斐の手から取り、読み直してみて「あ、いけない」と云った、「あとやとまちがえちゃったのね、ああいけない、海蜻蛉みたようだわ」
かよは机の上へ新らしい半紙をひろげ、坐り直してまた筆を持った。
「うみとんぼとはなんのことだ」
「ばかみたような人のことですって、日本橋のおじさまがそう云ってましたわ」
「日本橋、――雁屋か」
「ええ、信助おじさま」かよは振向いて云った、「日本橋のお店へ来る漁師がいて、それは葛西っていう遠いところから来るので、自分でとった魚や貝やなんか持って来るのでしょ、その漁師や漁師のおかみさんなんかが来て、いろいろな話しをするときにそういうことを云うんですって、本当はうみどんぼ野郎っていうんだけれど、かよはそんなことを云ってはいけないんですね」