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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《猫の蚤とり武士(ねこののみとりぶし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 頁

青空文庫

こう伊豆守は云ってから、しばらく言葉を途切らせた。

姉小路卿は不安になった。

(あの地の面倒な公卿の誰かに、面倒な伝言でも頼まれたら、厄介なことになろうかもしれない)

こう思ったからであった。

迂濶に外交的辞令など云って、藪蛇などにならなければよいが!

相手が寸分隙がないので、有名な評判の智恵伊豆であった。

一言の失言にもつけ込んで来よう。

(俺は馬鹿なことを云ったかもしれない)

姉小路卿は不安になった。

が、伊豆守はなおしばらく、無気味の沈黙をつづけていたが、

「鷹司卿には今回のことで、ご辛労なされたと存じまするが、ご健康はいかがでござりまするかな?」

と、ややあってまた何気ないように云った。

「いや、ご壮健にござります」

と、姉小路卿はホッとした様で、安堵したようにそう云った。

鷹司卿なれば自分と親友、たいがいのことなら承知してくれる、伊豆殿から難題的伝言があっても、先が卿なればまず安心と、そう思ったからであった。

が、伊豆守はそう云ったままで、またしばらく黙っていた。

日暮れに近い時刻であって夕陽が後苑の松の梢を、明るい色に染めていた。

「実は私にとりまして、あのお方はなつかしいお方でしてな」