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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁

青空文庫

老人だけが見なかった。それは彼が瞽目だったからであった。顔に焚火があたっていた。両眼の瞼がむくれ返り、真紅な肉裏を見せていた。眼球が一面に白かった。瞳が融けてなくなっていた。磁器のようにピカピカ光っていた。

闇の中から人の声がした。

「火があるようだ。あたらせてくれ」

光の圏内へはいって来た。それは犬のような動物であった。がやはり人間ではあった。四ん這いに這っているのであった。膝頭に草鞋が繋りつけてあった。両手に草履が繋り付けてあった。膝と手とで歩いていた。彼はヒョイと顔を上げた。その顔を火の光がカッと射た。顔中真っ白の歯ばかりであった。上下の唇が欠けていた。

火の側にいた若者が云った。

「お仲間だね、さあおあたり」

その若者の顔と云えば、さながら獅子の仮面のようであった。額がグッと突き出ていた。それに蔽われて両眼の辺が、暗い陰影を作っていた。若者は妻の方へ身を寄せた。でそこへ空席が出来た。

「有難う、有難う」

四ん這いの男はいざり寄った。有難うとは云ったものの、声は言葉を為していなかった。上下の唇がないからであった。

こうして一人仲間が増えた。

が、みんな黙っていた。