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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《綺堂むかし語り(きどうむかしがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 183,656 字 · 363 頁
彼はわが命の終るまで、一度も物を云ってくれぬ主君に仕えているのである。彼は経ヶ峯の雪を払って、冬の暁に墓所の門を浄めるのであろう。彼は広瀬川の水を汲んで、夏の日に霊前の花を供えるのであろう。こうして一生を送るのである。彼に取ってはこれが人間一生の務めである。名誉もいらぬ、利益もいらぬ、これが臣下の務めと心得ているのである。わたしは伊達家の人々に代って、この無名の忠臣に感謝せねばならない。
こんなことを考えながら門を出ると、犬はふたたび吠えて来た。
林子平の墓は仙台市の西北、伊達堂山の下にある、槿の花の多い田舎道をたどってゆくと、路の角に「伊達堂下、此奥に林子平の墓あり」という木札を掛けている。寺は龍雲院というのである。
黒い門柱がぬっと立ったままで、扉は見えない。左右は竹垣に囲まれている。門をはいると右側には百日紅の大木が真紅に咲いていた。狭い本堂にむかって左側の平地に小さな石碑がある。碑のおもては荒れてよく見えないが、六無斎友直居士の墓とおぼろげに読まれる。竹の花筒には紫苑や野菊がこぼれ出すほどにいっぱい生けてあった。そばには二個の大きな碑が建てられて、一方は太政大臣三条実美篆額、斎藤竹堂撰文、一方は陸奥守藤原慶邦篆額、大槻磐渓撰文とある。