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きどうむかしがたり

綺堂むかし語り

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《綺堂むかし語り(きどうむかしがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 183,656 字 · 363 頁

青空文庫

えい、富貴の国とぞなりにける。やんら……。

わたしらはこの歌の全部を聴き取るほどの耳をもたなかった。勿論、その巧拙などの判ろう筈はない。塩竈神社の神楽を観た時と同じような感じを以って、ただ一種の古雅なるものとして耳を傾けたに過ぎなかった。しかしその唄の節よりも、文句よりも、いちじるしく私の心を動かしたのは、歌う人々の態度であったことを繰り返して云いたい。

政宗以来、孔雀丸は松島の海に浮かべられた。この老人たちも封建時代の最後の藩侯に仕えて、御座船の御用を勤めたに相違ない。孔雀丸のまんなかには藩侯が乗っていた。その左右には美しい小姓どもが控えていた。末座には大勢の家来どもが居列んでいた。船には竹に雀の紋をつけた幔幕が張り廻されていた。海の波は畳のように平らかであった。この老人たちは艫をあやつりながら、声を揃えてかの舟唄を歌った。

それから幾十年の後に、この人々はふたたび孔雀丸に乗った。老いたるかれらはみずから艫擢を把らなかったが、旧主君の前にあると同一の態度を以って謹んで歌った。かれらの眼の前には裃も見えなかった、大小も見えなかった。異人のかぶった山高帽子や、フロックコートがたくさんに列んでいた。