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きどうむかしがたり

綺堂むかし語り

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《綺堂むかし語り(きどうむかしがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 183,656 字 · 363 頁

青空文庫

それが今日では反対になって来たらしい。

湯屋の二階はいつ頃まで残っていたか、わたしにも正確の記憶がないが、明治二十年、東京の湯屋に対して種々のむずかしい規則が発布されてから、おそらくそれと同時に禁止されたのであろう。わたしの子供のときには大抵の湯屋に二階があって、そこには若い女が控えていて、二階にあがった客はそこで新聞をよみ、将棋をさし、ラムネをのみ、麦湯を飲んだりしたのである。それを禁じられたのは無論風俗上の取締りから来たのであるが、たといその取締りがなくても、カフェーやミルクホールの繁昌する時代になっては、とうてい存続すべき性質のものではあるまい。しかし、湯あがりに茶を一ぱい飲むのも悪くはない。湯屋のとなりに軽便な喫茶店を設けたらば、相当に繁昌するであろうと思われるが、東京ではまだそんなことを企てたのはないようである。

五月節句の菖蒲湯、土用のうちの桃湯、冬至の柚湯――そのなかで桃湯は早くすたれた。暑中に桃の葉を沸かした湯にはいると、虫に食われないとか云うのであったが、客が喜ばないのか、湯屋の方で割に合わないのか、いつとはなしに止められてしまったので、今の若い人は桃湯を知らない。