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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控 鬼の面

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控 鬼の面(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,082 字 · 257 頁

青空文庫

二太刀三太刀やり過したのは、そのお蔭というよりは、暗とぬかるみのせいだったかも知れませんが、兎も角も、雨合羽を少し裂かれただけで、大した怪我もなく、松平伊賀様前の、自身番の灯の見えるところまで辿り着いたのは、僥倖という外は無かったのです。

「えッ、面倒」

畳みかけて襲いかかる曲者の刄は、灯が見えると、一段と激しさを加えました。吾妻屋永左衛門、それを除けるのが精一杯、が、終に運命的な瞬間は近づきました。

後ろすさりの永左衛門、とうの昔に高足駄は脱ぎ捨てて居りましたが、道傍の石に足を取られて、物の見事にぬかるみの中に引っくり返ったのです。

今ぞ観念と、振り冠った曲者の刄、

「あッ、大井、大井久我之助様」

自身番の灯が細雨を縫ってサッと、曲者の顔を照し出したのです。

それは弓町に住む浪人者で、同じ道に親しむ、青年武士――ツイ先刻まで、同じ俳莚に膝を交えて、題詠を競った仲ではありませんか。

相手の素性がわかると、吾妻屋永左衛門妙に自信らしいものがついて来ました。日頃懇意にしているだけに、大井久我之助の強さ弱さをことごとく知って居ります。

吾妻屋永左衛門の棒振り剣術と違って、相手は二本差だけに、剣術の腕前は確かにすぐれて居るでしょう。