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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《随筆 新平家(ずいひつ しんへいけ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 213,575 字 · 424 頁
と、声をかけてやりたくなる。なにも、思いを平家敗戦の遠くにまで持ってゆくには及ばない。ついきのうのぼくらの身ぢかでたくさんだ。そうじゃないか、生き残りの痩セ木君。
和布刈神社のメカリというのは、わかめの意味ですと教えられる。和銅年間から、ここの速鞆の神主が、大晦日の晩には衣冠をつけ、鎌と松明を持って、わかめを刈り、神前と国主に供えたのが始まりで、それが謡曲の“和布刈”であります――と、悟空子の説明はなにかと詳しい。
社は、形だけのトタン葺き。万葉集の“はやと迫戸と岩穂”も仲哀帝の渡航も、文字ノ関守の時代も、現実は冷酷に、歴史的回顧の一切を一笑に附し去っている。ただそれは海峡の潮音と虚空の風に聴くしかない。
長門の壇ノ浦は、すぐ対岸だ。そこの岬とここの岬とで、海峡中、いちばん狭い所らしい。源平盛衰記や平家物語にいう“海潮早キコト矢ノ如シ”の状は、今とて、少しも変っていないだろう。じっと、佇立に耐えているうちに、耳は潮鳴りで塞がれてしまう。青ぐろい渦潮の下から、ふと、流されて行く死馬につかまっている武者の背や、夥しい矢や楯や、また緋の袴の黒髪などが眼に見えてくる心持もする。