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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
Read 三国志(七) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 371,916 characters · 744 screens
漢中の破滅はこれが重大な一因を成した。せっかくこれまで勝ちつづけていたものを、曹操の計に乗って一ぺんに無にしたものであった。
なぜならば、その日、霧風といって、大陸的な気流の烈しい中に、咫尺もわかたぬほど濃霧がたちこめていたのである。楊昂の軍勢が出た夕方、
「開門っ、開門っ」
と、陽平関の下で、軍馬がひしめき叫ぶので、必定、味方が帰ったものと考え、門をひらくとともに、何ぞはからん、魏の夏侯淵が三千の精鋭をつれて、どっと突き入ってきたのだった。
奇襲好きな漢中軍へ、こんどは逆手を取って、奇襲したものである。魏兵は城内へ混み入るなり八方へ火をかけた。夜に入るし、留守は手薄であったため、焔の城頭たかく、たちまち、魏の旗が立てられてしまった。
総司令の張衛は、いち早く、南鄭(陝西省・漢中の一部)へ逃げ落ちてしまい、楊昂は、後方の火の手に愕いて、追撃を止め、あわてて引っ返してくるとその途中、
「待っていた」とばかり穏れていた許※(「ころもへん+睹のつくり」、第3水準1-91-82)の手勢に捕捉されて、完膚なきまでに粉砕され、楊昂自身も、敢なく屍を野にさらしてしまった。