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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
Read 三国志(七) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 371,916 characters · 744 screens
なるものとみえまする」
孔明のことばは沈痛を極めた。また彼のことばには裏にも表にも微塵の私心私慾はなかった。玄徳は服せざるをえなかった。
元来、彼は非常に名分を尊ぶ人である。世の毀誉褒貶を気にする性であった。それだけにこの問題については、当初から孔明の意見にも容易に従う色は見せなかったが、周囲の事態形勢、また蜀中の内部的なうごきも、遂に、玄徳の逡巡を今はゆるさなかった。
「よくわかった。予の思慮はまだ余りに小乗的であったようだ。予がこのまま黙っていたら、かえって、魏の曹丕の即位を認めているように天下の人が思うかも知れない。軍師の病が癒ったらかならず進言を容れるであろう」
玄徳はそう約して帰った。
数日のうちに、孔明はもう明るい眉を蜀営の政務所に見せていた。太傅許靖、安漢将軍糜竺、青衣侯尚挙、陽泉侯劉豹、治中従事楊洪、昭文博士伊籍、学士尹黙、そのほかのおびただしい文武官は毎日のように会議して大典の典礼故実を調べたり、即位式の運びについて、議をかさねていた。
建安二十六年の四月。成都は、成都が開けて以来の盛事に賑わった。大礼台は武担の南に築かれ、鸞駕は宮門を出、満地を埋むるごとき軍隊と、星のごとく繞る文武官の万歳を唱える中に、玄徳は玉璽をうけ、ここに蜀の皇帝たる旨を天下に宣したのであった。