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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
Read 三国志(七) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 371,916 characters · 744 screens
二
「潘璋、出でよ」と、四角八面にあばれ廻っていた。
けれど、きょうは呉にも、備えがあった。彼は地の利の悪い危地へ取り籠められた。血路をひらいて遁れようとすると、四方から石が飛び黒風が捲いてきた。そして右の山から周泰、左の渓流から韓当、うしろの谷から馬忠、潘璋というふうに、呉の軍勢は霧のごとく彼の退路をふさいでしまった。
二
豪気な黄忠も、いまはどうすることもできない。身には幾すじも矢を負い、馬は石に当って斃れた。精は尽き、眼はかすみ、
「いまはこれまで」と、自ら首を刎ねて死のうとした。
呉の大将馬忠は、そのとき馬を飛ばして、砂礫とともに駈けおりて来た。それを知るや黄忠は、
「死出の道づれに、望むところの敵」
と、断末魔の勇を鼓して、馬忠のまえに幽鬼の如く立ちふさがった。
「そのような白髪首をまだ惜しむか」
馬忠の突いてくる槍の柄にしがみついて、黄忠は離さなかった。そのうちに四方の呉軍が何事か騒ぎ出したので、馬忠はいよいよ持て余し、かえって老黄忠のために槍を奪われ、その槍でりゅうりゅうと突きまくられた。
関興、張苞のふたりは、この山間に黄忠が追い込まれているのをようやく知って、それを救うべくこれへ急襲して来たのである。