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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
Read 三国志(七) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 371,916 characters · 744 screens
二
――愚や、愚や張飛。それこそわが望むところ」
厳顔もまた城中の勢をことごとく手分けして、勝手を知る間道の要所要所に、兵を伏せて待っていた。
おそらくは、張飛の先陣、中軍が山を越える頃、輜重兵糧の車馬はなお遅れて遠く後陣にあろう。その頃、合図の鼓とともに、いちどに繰り出して、敵陣を寸断せよ。個々撃滅して、みなごろしにすべし――と厳顔は味方の武将につたえていた。
やがて、木々のしげる間を、黒々と敵の先鋒中軍は通って行った。まぎれもない張飛の姿も見えた。それをやりすごして、輜重部隊の影を見た頃、
「今ぞ」
と、厳顔は、合図の鼓を高らかに打たせた。
二
四面の伏兵は、喊声をあげながら、まず敵行軍を両断し、後尾の輜重隊を包囲した。
すると、おどろくべし。すでに先刻、中軍にあって先へ通って行ったはずの張飛が、その輜重隊から躍りでて、
「厳顔老匹夫、よく来た」
と、大声にいった。
厳顔は仰天して、馬からころげ落ちそうになった。
振り向けば、豹頭炬眼、その虎髯も張飛にまちがいはない。
「おうっ、出会うたは、幸いである。張飛うごくな」
部下のてまえぜひなく彼は、敢然、馬をとばして、張飛の大矛へ、甲体を投げこんで行った。