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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
Read 三国志(七) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 371,916 characters · 744 screens
昂然トシテ左右ヲ顧ミ、松紋廂宝ノ剣ヲ手ニカケテ曰ウ。
「中国の人間どもは、孔明孔明とみな怖れるが、この孟獲の眼から見れば、一匹の象、一匹の牝豹にも足りない。いわんやその下の野狐城鼠どもをや。――やい、忙牙長、あいつを圧し潰せ」
と彼は振り向いて、部下の一将へ頤をさした。
忙牙長はおうっと吠えて、またがっている怪獣の尻をぴしっと革でなぐった。馬ではなく、それは大きな角を振り立てて来る水牛であった。
王平と五、六合戦ったが、尋常な剣技では比較にならない。忙牙長はたちまちにして追い立てられた。
部下の血を見ると孟獲は本来の蛮人性をあらわして、おのれと喚きざま、王平へ跳びかかってきた。王平は詐って逃げだした。
「ざまを見ろ、古廟の番人め(武神の木像をさしていう)引っ返せ」
捲毛の赤馬に、旋風を立てながら、孟獲は追いかけてきた。
(頃はよし――)と眺めた関索の一軍は、突として、彼のうしろを中断し、その背後を脅かすと、またたちまち、張翼は右から、張嶷は左から、蛮軍をおおいつつんだ。
無智の軍と、兵法ある軍との優劣は、余りにも明らかな結果を現わした。寸断された蛮軍は蜂の巣を叩かれたように混騒し、その逃げる方角すら一定の方向も持たない。