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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

Read 神州天馬侠 (しんしゅうてんまきょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 511,765 characters · 1011 screens

Aozora Bunko

五湖、裾野、人穴、いたる所ではげしい斬り合があったり、流れ矢が飛んできたりしたため、善良な村の人たちは、すわ、また大戦の前駆かと、例によって、甲州の奥ふかく逃げこんだ。

それゆえ、秋の日和だというのに、にわとりも鳴かず、杵の音もせず、あわれにも閑寂をきわめている。いま聞こえたへたくそな歌も、一つはこのせいで、いっそう、素ッ頓狂にもひびいてきこえる。

「やア、こいつア、こいつアこいつアうまいものがあらあ――」

こんどは地声で、人なき村のある軒先に立ち――こういったのは竹童である。

かれが、目の玉をクルクルさせ、よだれをたらして見あげたのは、大きな柿の木であった。上には枝もたわわに、まだ青いのや、赤ずんできた猿柿が、七分三分にブラさがっている。

「こッちの端にある赤いやつはうまそうだなあ。取っちゃあ悪いかしら? かまわないかしら……?」

いつまでも立って考えている。この姿を、果心居士が見たら、なんとあきれるだろう。

口に葉ッぱをくわえているところを見ると、いま、木の葉笛を吹きながら、へんなでまかせを歌ったのもこの竹童にそういない。いったいこの子は、お師匠さまからいいつけられている計略なんか、とっくにドコかへ忘れてしまっているのではないかしら、第一きょうはかんじんな、かの昇天雲である鷲にも乗っていない。