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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
Read 神州天馬侠 (しんしゅうてんまきょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 511,765 characters · 1011 screens
二
咲耶子は、竿立ちとなった駒のたてがみにしがみついて、焔のまえに悶絶した。
倒れたのは、馬ばかりか、人ばかりか、二尺角の白木の十字架まで、上から真ッ二つにさけ、余煙のなかへゆら、――と横になりかかってきた。
雷火の炸裂は、詭計でもなんでもない。怪人呂宋兵衛が、ふところに秘めておいた一塊の強薬を、祭壇に燃えのこっていたろうそく火へ投げつけたのだ。
長崎や堺あたりで、南蛮人が日本人と争闘すると、常習にやるかれらの手口である。民部はそれを知っていたので、あわてて駒を飛ばしてきたが、一足おそかった、裂けた十字架が、いましもドスーンと大地へ音をひびかせた時である。
「人穴の賊。そこうごくなッ!」
民部は、乗りつけてきた馬の鞍から飛びおりるより早く、壇の上につっ立っているかれを目がけて斬りつけた。
「しゃらくさいわッ」
呂宋兵衛は、民部の第一刀をひッぱずして、いきなり鬼のような手で彼の右手をねじあげた。
もうふところに強薬は持っていないので、まえのような危険はないが、腕と腕、剣と剣の打ちあいでも、民部は呂宋兵衛の敵ではない。
「うーむ、この小僧ッ子め」
酒呑童子もかくやの形相で、大きな唇へやい歯をかませた呂宋兵衛は、いきなり民部の利腕をひとふりふって、やッと一声、壇の上から大地へ投げつけた。