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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
Read 神州天馬侠 (しんしゅうてんまきょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 511,765 characters · 1011 screens
独楽だまし
一
浜松城のお小姓であれば、しかるべき家柄の息子たちにはちがいないが、城下からこんなところまで、鷲と取っくんできたのだからたまらない、とんぼぢらしのおそろいの小袖も、カギ裂きやら泥だらけ。
なかには、手や頬ッぺたをすりむいて、ざくろみたいになっている者、鼻血をだしておさえている者、髷の草ッ葉がとれないでこまっているもの、脇差の鞘だけさしてすましているもの。――どれもこれも弟たりがたく兄たりがたき腕白顔だ。さだめし、屋敷へかえったのちには、母者人からお小言であろう。
お山の大将おれひとり――という格で、中にまじっている徳川万千代は、みんなと一しょに、つなぎ止めた大鷲を取りまきながら、
「やあ、金光りの眼で、ギョロギョロとにらんでいるわ。怒るなおこるな、いまに餌をやるからな。余一、余一、さっきの餌を持ってこい」
と、鞭をあげてさしまねいた。
「はい」
というと、とんぼ組の中でも一番チビなお小姓余一、にわとりの死んだのを、竹のさきにかけて、万千代の手へ渡した。
「おお、鷲のごちそう」
と一同にみせて、笑わせながら、万千代はそれを猛禽の鼻ッ先へ持っていった。そして、くちばしのそばへぶらぶらさせたが鷲は横をむいて、その匂いすらかごうとしない。