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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
Read 神州天馬侠 (しんしゅうてんまきょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 511,765 characters · 1011 screens
二
「やかましいッ!」と、木隠龍太郎。
「はるばる、若君がここへ、お越しあそばしたのは、お父上勝頼公をお迎えにまいったのだ。その鎖駕籠のうちに、お身をひそめたもうおん方こそ、まぎれもなき勝頼公と見た。呂宋兵衛、神妙に渡してしまえ」
「なにを、ばかな。いかにも鎖駕籠のうちには、これから桑名のご陣屋へ護送するひとりの落武者が入れてある! だがよくきけよ! おれも人穴城にいた野武士とちがって、いまでは、南蛮寺を守護する羽柴家の呂宋兵衛だぞ。なんで勝頼をうぬらの手にわたすものか」
「渡さぬとあらば、なおおもしろい。木隠龍太郎や忍剣が力をあわせて、汝らを、この松並木の生き肥にしてくれる」
「わはははは、片腹いたいいいぐさを聞いちゃいられねえ。オオ! めんどうだが、桑名へのいきがけの駄賃にうぬらの生首を槍のとッ尖にさしていくのも一興だろう。それッ、この虫けらを踏みつぶしてしまえッ」
剣をはらって、うしろの狼軍をケシかけようとすると伊那丸の声が、またひびいた。
「ひかえろッ、雑人ども!」
機山大居士武田信玄の孫、天性そなわる威容には、おのずから人をうつものがあるか、こういうと呂宋兵衛にしたがう山犬武士ども、おもわず耳の膜をつン抜かれたように、たじたじとして、われ一番にと斬りつける者もない。