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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
Read 神州天馬侠 (しんしゅうてんまきょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 511,765 characters · 1011 screens
二
「鏃鍛冶の弟子小僧、さだめしびっくりしたことであろう」
と、蛾次郎のあの瞬間の顔つきを思いだしては、また笑った。
いかにも快活な笑いごえである。
それは、伊那丸の幕下で一番年のわかい巽小文治だった。つれの六部は、ニヤリとして口数をきかないが、たしかに木隠龍太郎であるということは、ほの暗い濠ばたの夕闇にもわかる。
小文治はなにものかを待つように、ときどきうしろをふりかえって、
「だがどうしたのだろう、まだ追いかけてくるようすがないが」
と、つぶやいた。
「いや、こっちの足が少し早かったから、どこかの辻で見うしなって狼狽しているのであろう。いまにきッと追いかけてまいるにちがいない」
と、龍太郎は濠ぎわの捨石を見つけて、ゆったりとそこへ腰をおろした。
「けれど蛾次郎のやつも、われわれと知るとかえっておじけづいて、独楽よりは命が大事と、あのまま泣寝入りに帰ってしまいはいたすまいか」
「なに、あの小僧は、白痴のように見えて小ざかしいところがあり、悧巧に見えて腑のぬけている点がある。まことに奇態な性質、バカか賢いのか、ぼんやり者かすばしッこいのか、つかみどころのないやつじゃ。