Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Read ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) by 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,905 characters · 262 screens
これがまだ登山に関する知識の普及していなかった当時、珍らしい大事件として、世人を驚かしたというのは、さもあろう。そこに、いろいろ不覚の点もあったにせよ、何せ思い外の大時化の中の難行で、頼みの先生方が、大切なマッチまで濡らしてしまい、肝心の火を焚こうにも、何としてもたきつける手段がなく、やむなく無人の破れ小屋で、疲れきった児童たちをかばいつつ、ふるえながら運命の一夜を送った……そのあげくの惨事だった。
駒ヶ岳崖滝の挿図
この際、現場のわれらが仲間は、さすが見るに見かねて、進んで総身を灰にしよう、どうにかして彼らを助けてやりたい……と心ばかりは逸りながら、根が能なしの、動きのとれぬ偃松の悲しさ。せっかく、なけなしの知恵をしぼった、嵐をついての鳥の使い――さえ、人にはついに届かずじまいで、何と仕様も涙に暮れるばかり……というみじめな結末には、それと知った俺たちまで、ともども貰い泣きする外なかったものだが……。
いつか俺は、それからそれへと、おのがすぎ来し方を、ふり返って見る心持ちになっていた。思えば長いことよ。俺がまだほんの青二才だった頃といえば、この辺には何代もの親たちにあたる、いい年配の面々が、今からは想像もむづかしいほど、ビッシリ腕を組み合わせて控えていたものだ。