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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Read ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) by 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,905 characters · 262 screens
春雪写山行
昭和三十五年早春、頼もしき鶯の声を味わいつつ 阿佐ヶ谷の七葉山房にて
清太道人
梅が香や雷鳥の影まぼろしに
春雪写山行
どこから降るのかいつまで降るのか、分らぬような山の雪も、旧正月が峠でようやく間遠に、いつか角度を高めた陽光は、積雪に映発する。久方ぶりに天上の峰たちも、新しいおもてを輝かし合う。長夜の銀世界に、かくて春は明けそめるのだ。この頃画嚢を提げて山に入るこそ何らの清福。今年もそのため、冬山のつかれがぬけないのに又旅支度だが、去春の蓮華山中も実によかった。当時の山日記を翻えしても、あの熱い光りを浴びる心地だ。
しらびその挿図
旅立ちは二月下旬の、秩父おろし烈しい日だった。富士も白峰、赤石も、晴れきって烟霞を吐く。北アルプスはさすがに雲をかむって濃紫にかげり、雪がチラチラ舞い落ちる。森上で山人Yに迎えられ、新田の彼の家まで来れば、雪は五、六尺もある。一つ棟に馬も住む、広い山家の炬燵で、赤菜の漬物に一陶を傾けると、深い落着きを覚える。
次の日ゆっくり、Yと共に落倉に向う。大杉の杜に諏訪明神を拝んでスキーをはく。時折り風が小雪を飛ばす。楠川は雪間に清流を隠顕させる。