Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Read ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) by 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,905 characters · 262 screens
四 鐘釣温泉
それは春の雪崩で峯から押し落されたもので、表面はべっとり名残りの柴泥を被っている。ただその割れ口からは、剥いだ果実の渋を吹いたような膚がほの見え、あるものはそこを水にうがたれて、洞門から怪しい湯気を吐く……それで僅かに雪――と気がつくのもある。これらは少しずつ溶けながらも、日のながい夏でさえ、日光が三、四時間とは射していない谷底で、かつ泥土や柴草に保護されているから、容易に消え去るものではない。わずか四、五百メートルの高距なのに、十月になっても、まだ人々は、これら隠遁者の姿を求めることができよう。
四 鐘釣温泉――その一
猫又谷から鐘釣山の裾を廻れば、もう鐘釣温泉はほど近い。高い崖端から向うの大岩へ、長々と架け渡した釣橋で、――荒らくれた無数の泡沫ばかりが、混沌と躍り狂い、わめき立てる谷水を渡って行けば、針金と柴木の橋桁が、あおられるようにゆらゆら揺らめく。こうしてようやく雑木の葉越しに、温泉宿の屋根を見つけた時には、まったくホッとする。気の張りがにわかにゆるむのを覚える。まして病をもつ人の気持はどんなだろう。まことにこの六里の谷道は、健康な人にさえ、さように楽なものでは決してないのだ。