Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

Read ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) by 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,905 characters · 262 screens

Aozora Bunko

(大井川の紀行は、前著「山岳渇仰」に、黒部のは本書に収められた)この二大山谷は、地位においても美観においても、相譲らぬものがあるのに、風格個性の点で、まったく対蹠的であるのが面白い。大井川には脂肪があり、黒部川は筋骨を剥き出して、優美と壮美の匂いの差がある。観音像と、その変身の執金剛神の姿を思わせる。

黒部のこの特性は、すでに下流からあらわれているが、猿飛から祖母谷出合で、いよいよ本格的になる。祖母谷といえば、今でこそのんきな山道を、悪い道だなぞとつぶやいて上下しているが、もとの谷歩きと来ては、たいへんなもので、大正四年に助七のあとについて、そこから硫黄沢にかけて歩いた時など、大岩壁の中腹をわずかの足がかりを頼りの横へつりに、はるか真下の白い水、青い水がもりあがって来て引込まれるようで、足がすくみ、今でも夢の中で、それにうなされるようなことさえある。おそろしい経験は他にもあるけれど、こんな後でも、身体へ直接感じがよみがえって来る例はない。

峡谷俯瞰の挿図

それにくらべると、この本流遡行の時の方が、量はともかく、むしろ楽だった。しかも壮観はやはり本流だった。