Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

Read ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) by 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,905 characters · 262 screens

Aozora Bunko

一方水声は足の底、山脚の毛脛の真下――と思われる辺から湧き起り、広く物を蔽いかぶせるような音、鋭く螺旋状に物をつき通す音、高低、強弱、細大、種々の階音が綯い交ざって、両側の山壁を打ち、こだまを重ね、巨大な積量の響音となって、満谷の空気を大ゆりにゆりつつ、はるかな天空さして逸出してゆく。

百貫山八エ門谷の挿図

うしろもやはり岩石と樹木の立て壁。そして上流には針葉樹の暗い、下流には落葉樹の深い山々が、いずれも背を伸ばして押合っているから、天空はまったく遙かにして高く、押し狭めるように仕切られているのだ。明るい雲が、その峯の高庇から、現われては消える。暗い色のそれは、処どころ山にまつわりかかって、木々の間を爬行しつつ、降りてくるかと思えば、又ひらり身をひるがえしてのぼってゆく。

宿は山に沿うて細長く、幾棟かの長屋建てや、離れ座敷からなっている。その大岩を踏まえた離れの一室を借りて、私は寝起きした。毎年、五月から十月まで湯を開くのが例だそうだが、七月といえばもう浴客も多くなる時分で、どの建物も混み合っている。客は近在の農家が多く、自炊が大部分だから、鍋などさげた男女が、その辺を出たり入ったりしている。