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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Read ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) by 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,905 characters · 262 screens
静かな中に悠々たる動勢が感ぜられ、真に山はそば立ち、雲や鳥は飛んでいる。
このほか、隅壁その他に、天人、異獣、草花、種々の文様など一面に描かれているが、わが飛鳥期の遺品とよく似通い、支那北魏の系統といわれる。これらの画は天地を畏敬し、自然に親和する、東洋人独特の思想感情の現われと見るべく、仏教の匂いはないが、墳墓のことで、霊界との交通について地相の吉凶を卜する、いわゆる風水説の信仰が篤かった時代だけに、実に敬虔で気魄に満ちたものだ。画はすべて、微細にたたいた石面に直接描かれ、鋭いそして強い抑揚を持った線を主とし、色彩も豊富で、それが羨道から洩れる薄明りで妙に底光りしている。材料はおそらく密陀僧であろう、油性のものにちがいなく、土を透した天井からの雨漏りにも、さほどの損傷は見られなかった。
ただしこれは昭和十年の所見で、当時は日本の手でよく管理されていたが、その後の戦乱つづきで果してどんな運命をたどったか、考えると心が暗い。ただ無事を祈るばかりだ。わが国でこの絵に似ている法隆寺の壁画が、先年のあの災厄なのだ。この古墳壁画は山の絵の最古の遺品の重要な一つである。