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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Read ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) by 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,905 characters · 262 screens
、野宿にはごく都合のよい処だ。しかも前は本谷の雪渓を見おろし、西天高くあの大窓を仰ぐ。
朝起きれば、何よりもまず大窓を仰ぐ。窓の様子で、日和が占えるからだ。「窓が暗い」と、天気はきっとよくない。そんな日は必ず、暗い粘り気のある雲が、窓越しにだんだんと、糸をひいて両側の山壁にからみつきながら、大雪渓を這い下りて来る……あとはきまって雨になる。
大窓の明るく晴れた朝! 窓は濃い碧瑠璃にぬりつぶされて、しかもその明るさ。大雪渓は上部がまず、茜を帯びたみずみずしい偏光に照りはじめる。両崖はボキボキ折り重ねたような縦横の岩ひだが、斜めに朝日をうけていよいよ固く、厳しく、背を逆立て、破砕した岩砂の堤防も、岳樺のむら立つ崖岬も、等しく抉り出され、剥ぎ出されたごとく明劃で、痛いくらいに精刻だ。
雪は谷にギュッと食い込んでいる、殻に填まった海老の身のように。その互いに境する線は、到る処で角突き合い、ひしめき合いつつ奔下する。その雪は刻々と陽光に浸って、岩を刺し、空を射るばかりに輝き出す。光りをいっぱいに吸った白雲が、窓枠から立昇っては、天心さして消えてゆく。そこには巻積雲の鱗が、しずかに東の方へと移りつつある。