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さんごくし

三国志(七)

吉川 英治

Read 三国志(七) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.

N1 · advanced · modern kanji and kana · 371,916 characters · 744 screens

Aozora Bunko

「ただ前進あるのみ」と、即日、進発を命令した。

蛮地の行軍は、その果てなさに、ふたたび人々を飽かしめた。わけて輜重の困難はいうばかりでない。

ときすでに五月の末に及んで、先陣は行くてに瀘水の流れを見た。河幅は広く、水勢は急で、強雨のたびに、白浪天に漲った。

強雨といえば、この地方では、日に何回か、必ず盆をくつがえすような大雨が襲ってきた。猛烈な炎暑に喘ぐとき、それは兵馬をほっと救ってくれるが、同時に、甲の下も濡れ、兵糧も水に浸され、時には道を失って、漲る雨水の中に立往生してしまうことなどもままあった。

「や? ……対岸に敵がいる」

「何という厳しさだ。あの蜿蜒たる防寨は」

先鋒の兵は、胆を奪われた。対岸の嶮岨と、その自然を利用した蛮族一流の防寨を見た刹那にである。それは中国地方の科学的構造とは甚だ趣を異にしているが、堅固な点では、必要以上にも堅固にうかがわれる。

当然、遠征軍は、瀘水を前にして、はたと、その進軍を阻められた。

日々の強雨、一日中の悪暑、夜は夜で、害虫や毒蛇やさまざまな獣に苦しめられつつ、滞陣半月を越えんとしていた。

孔明は、令を出した。