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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
Read 剣侠受難 (けんきょうじゅなん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 195,479 characters · 394 screens
数行の隠語
「ええ拙者ことは長崎左源太、貴殿ご存じの天草時行、その者の使者にございます」
つづいてもう一人の武士がいった。「拙者ことは柴田三郎兵衛、江戸の浪人にございます。なにとぞ自今お心やすく。名前ぐらいご存じかと存ずる、由井正雪と申す仁、その方の使者と致しましてな、まかり越しましてございますよ。閑静なお住居、よろしゅうござるな。全く山中はよいもので」
部屋の中を見廻したものである。
名乗りを聞くと将右衛門の眼、ピカリとばかり一閃したが、さあらぬ体で聞き返した。
「承ればお歴々、木地師風情の拙宅へ、何用あっておいでなされたかな」
「されば」といったのは長崎左源太、一膝ズルよう進み出たが、「万事掛け合いは率直がよろしい。で、率直に申し入れる。二棹の唐櫃頂戴に参った」威嚇するような調子である。「ええと貴殿におかれては島原の乱のそのみぎり、原の城にこもられたと申すこと。しかも落城の前にあたり、巨大な二棹の唐櫃を、こっそり持ち出されたと申すことで。いやいや拙者の意見ではござらぬ、貴殿と同じに原の城にこもった、天草殿の意見でござる。で本日その唐櫃、是非頂戴致したいとな。