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らんとうばのてんにょ
卵塔場の天女
泉 鏡花
Read 卵塔場の天女 (らんとうばのてんにょ) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 47,251 characters · 94 screens
九
掛けたか、掛けないように、お悦は、骨董店の倚子に腰を摺らして、
「そんな服装で、花瓶を持って、一体どっちの方へ行ったでしょうね。」
「ええ、大橋の方へ、するするとな。はあ……」
お悦が莞爾して、
「この人通りじゃ身投でもありませんね。」
亭主の顔を見よ。その驚いたのへ引被せて、
「湯呑を一つ貸して下さい、お茶碗でも。」
「はあはあ。」
芬々薫る処を、波々と、樽から酌いでくれたから、私はごくごくと傾けた。実に美酒の鋭さは、剣である。
「お楽みでございますな、貴女様もお一ついかがで。えへへへ。」
と、自棄に、口惜しそうに、もう一つ出した茶碗へ、また充満に樽の口をつけた。
「お酒だけは一滴も不可ません。――旦那めしあがれ。……御馳走様。ほほほほほ。」
九
橋手前、辻の角の、古ぼけたが、店並一番の老舗らしい菓子屋へ入って、売台へ立ちながら、
「ちょっと……ああ、番頭さん、お店の方もお聞きなさい。私ね、この頃人に聞いたんですがね。お店の仕来りで、あの饅頭だの、羊羹だの、餅菓子だのを組合せて、婚礼や、お産の祝儀事に註文さきへお配りなさいます。」
「へい、へい。」
「あの、能の葛桶のような形で、青貝じらしの蒔絵で、三巴の定紋附の古い組重が沢山ありますね。