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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Read 松のや露八 (まつのやろはち) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,597 characters · 253 screens
藍花畑を見れば、花の美よりも先に、何貫目と数字を出すし、空地を見れば蒔く麦を考え、山を見れば植林を云う。
(大した男だ)
露八は、ある意味では感心し、ある意味では蔑み、だんだん一緒に歩くのが嫌になってきた。
また、しきりと国事を語る。
ナポレオン一世がどうの、イギリスの阿片政策がどうの、パークスがどうのと、しばしば、露八には相槌の打てない話題にも話がとぶ。
王政復古――幕府はもう永くない――ご一新は近い、となると渋沢の顔は、柔和な眼も、痘痕の一つ一つも、野心そのものに熱をおびて、
「これからだぞ、君」
露八のぼんやりを醒ますように云った。
「そうだ」
露八も、云わざるを得なくなった。また、そんな気もしてくるのだった。
しかし露八は、いくら渋沢に心服してみても、ただ一つ、あぶないものだと懸念したのは、渋沢の信念が、どこまでのものだかという点だった。こういう頭のいい、理性のととのった男が、果たして、実際にのぞんだ場合――国家のため――という以外何もなく、さらりと、若き白骨になれるかどうか?
(そこへゆくと――弟の奴は……)
彼は、無口な八十三郎の行く手に、骨肉的な――死なしともない不安さを多分に抱いた。