Japanese reading practice

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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

Read 松のや露八 (まつのやろはち) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,597 characters · 253 screens

Aozora Bunko

三

「ご両人様」

女中だの、芸妓たちだの、一山ほどかたまって、囃した。

「ひどいわ!」

お喜代は、遠くから打つ真似して、美しい魚みたいに、走って行った。

どかんと、帳場に坐り直して、庄次郎はまた、帳つけの筆をさがした。

「筆がない、筆がない」

きょろきょろと、膝の下を剥ってみたり、立ってみたり、やっと、その筆が、耳に挟んであるのを見つけて、

「さあ、見つけたぞ……」

顔が、希望でいっぱいになった。婚礼の夜みたいに、胸がときめいて来る。どこで会おう、どこから呼びをかけよう。そして……そして……

「ははは。見つかった、とうとう、見つかった」

ひとりで、笑っていた。

三

膳部や、銚子を持って、幾たびとなく、帳場の前を往来する女中たちが、

「お帳場さん、お天気だね」

「ウム、いいあんばいだ」

「あれさ、お前さんの、ご機嫌のことだよ」

「ご機嫌か」

「いやにニコついているじゃないか。何か、奢んなさいよ」

「はははは」

「あれ、また笑うよ、薄気味が悪いね」

すると、空膳を下げて来た女中が、また、足を止めて、

「お帳場さん、桐壺のお客が、ちょっと、お前さんに顔を貸してもらいたいって。――ほかのお客はもうお帰りだから、すぐ行っておくれ」