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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Read 松のや露八 (まつのやろはち) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,597 characters · 253 screens
二
眼ッかちが、定紋の提灯箱を下ろして、踏みつぶした。蟇は、寝たまま脚をばたばたさせて、
「闘鶏師を泣かせて、金を蓄めた屋敷だ。オオ汚え、オオ汚え」
襖へ、ペッペッと、唾を吐きかけた。
「おのれっ!」
八十三郎の手から、鞘が後ろへ飛んだのと、蟇が、吃驚して、刎ね起きたのと、一緒だった。
「きゃっ――」
背すじを割られた蟇は、火の玉みたいに、炎天へ飛びだした。禿安も、眼ッかちも、追って来る刀を振り向きながら、
「人殺しだあっ――」
「人殺しいっ」
坂道を、転げるように、逃げて行った。
二
ここなら、世間へ知れっこない。向島の小梅村。
小倉庵長次の近くだった。梅暦の挿絵で見るような萩の籬で一軒家、家賃も安いし、近所も気楽である。そこへ、越してからすぐ札を出したのが、
荻江節、お蔦
女師匠が、奥で爪弾きをしていると、大きな男が、つるべ井戸から手桶をさげて風呂場へ汲みこんでいた。
「あなた、少し、お稽古をしなくちゃ駄目ですよ」
「さらってもらおうか」
仲がいい。世帯が珍しいのだ。しかし、弟子はまだ一人もつかなかった。
「庄次さん、浅草へ行かないか」
「何しに」
「遊びにさ」
「嫌だ」