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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Read 松のや露八 (まつのやろはち) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,597 characters · 253 screens
引っぱり起こして、
「さ、帰りましょう」
「か、か、勘定を」
「払いましたよ、ここのお勘定は」
「そうか」
畏まって、丸い膝へ、両手をつく。首を垂れる。
「ホ、ホ、ホ。何を考えているのですえ?」
「相済まん、この通り」
「およしなさい、帳場だの、お客たちが、笑っているじゃありませんか。とにかく此店を出ましょうよ」
「うむ」
「行きますよ」
「しばらく」
「どうなさいましたえ」
「た、た、立てそうも……ない」
呆れ顔に見るもののお蔦は憎くない眼をした。駕辰から、若い者を一人呼んでもらって、庄次郎を負ぶってもらう。
「こいつあ、土左衛門よりゃ、重いぜ」
駕舁でさえ持ち扱いかね、
「お蔦姐さん」
「あい」
「駕じゃあどうです。駕ん中にどし込んで、縄括げにでもしては」
「ついそこだもの、我慢おし」
「どこだ」
「肴店の毛抜き鮨」
「この蛸侍を鮨だねに、卸売しゃアちょうどいい」
「馬鹿におしでない」
笑靨で睨めつけて、
「――私のいい人をさ」
「オヤ、そんな、おやすくねえ人ですか」
「嘘だよ。だけど、自家へは、黙っていておくれ。お里にも、お喜代にも。――いいかえ」
無論、安値くない駕賃についた。
二
酢がにおう。