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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Read 松のや露八 (まつのやろはち) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,597 characters · 253 screens
不眠症になってきた。座敷牢の生活が、二月の余もつづいた。五月雨になる。毎日じとじと雨の音ばかりを聞く。脂のぬけた蒼白い顔にカビが生えかかってきた。
「どうじゃ庄次郎、少しは、考えたか」
叔父は、二ヵ月目で、そこを開けた。懇々と、長談議である。意見されていると、涙が出た。
「やっと、八十三郎の取り做しで、勘当が許された。あの弟に対しても、恥ずかしいと思え」
そんな訳で、庄次郎は、小石川へ復帰がかなった。後で聞けば、榊原と叔父とは、近所交際いもしているし、囲碁仲間だとも分かって、お蔦との媾曳が、榊原から叔父の耳へ、叔父から父の半蔵へ、まるで筒抜けであったのを知り、庄次郎は、手ぬかりを後悔した。
それにまた、帰って見れば、妻の照子は、変りなく、家に働いていた。安心と、意外は、べつものだった。照子が、遺書を書いたのは事実らしいが、井戸へ身を投げた云々は、銖之丞が、懲らしめのため、あの場合の庄次郎を脅かした誇張に過ぎない。
肉親と肉親とは、十日も暮らすと、間の悪さも取れたが、照子とは、よけいに気まずい溝ができた。三ツ指と泣き顔に、庄次郎は、鬱々して、
「お蔦は、どうしているか」