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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Read 松のや露八 (まつのやろはち) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,597 characters · 253 screens
その一通を、破って見たところ、案のとおり……流行ものの、勤王とか、攘夷病とかいう奴に、取ッ憑かれているのだ」
「ほ、弟が?」
「だからじゃ」
鈴木は、ぽんと、背を打って、
「――急ぐにも当たるまいではないか。むしろ、その辺で、一杯飲ろう。やがて、夜が来るというもの。くそ骨折って、下手い仕事をするなあ、三下のすることだ」
夕方、あらあらしく、駕で帰って来た父は、部屋に、畏まっている庄次郎を見ると、すぐ、
「八十三郎っ、なぜ、縄をかけておかんかっ。なにっ? 兄に縄はかけられんと。ばかっ、情は情、武士道は武士道、よしっ、わしが糺明してやる。細引を出せっ、細引を」
麻縄で縛って、
「畳の上に、おくも、けがらわしいッ」
縁から蹴落とした。
それから、長押の槍を外して、摩利支天のような恐い顔を反身に持って、ずかずかと、庭へ下りた。
「誰も、止めるなっ。止める奴は、わしの子でもない、嫁でもないぞっ……」
そういうと、嫁の照子が、ほの暗い縁の隅で、声を揚げて泣きだした。八十三郎は、兄の姿を離れて、夕闇の大地に膝まずいたまま、石のように、俯向いていた。
「庄次郎っ」
槍鞘を、からっと、外して、半蔵はわが子の姿を睨みつけた。