Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

Read 神州天馬侠 (しんしゅうてんまきょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 511,765 characters · 1011 screens

Aozora Bunko

もっとも、蛾次郎の身にとってみれば、甲府一城の安危よりは、この独楽一箇が大事かも知れない。だれか、かれを悪童とよぶものぞ。独楽を頬ッぺたに押しつけたまま、馬糧のなかにやがてグウグウ寝入りこんでしまったかれこそは、まことに、たわいのないものではないか。

だが、眼がさめると、こいつがいけない。

すぐにユダを発揮し、天邪鬼をまねる。

蛾次郎よ、永遠に寝ていろ、馬糧のなかで。

三

四更。

月も三更までを限りとする。四更といってはもう夜半をすぎて暁にちかいころ。

馬ぐさ小屋の中の高いびきは、定めし心地よい熟睡におちているだろう。お長屋の灯もみんな消えて、卜斎の家のなかも、主のこえなく、客の笑いもたえて、シンとしてしまった。

月のゆくえはわからないが、空いちめんはいつまでも、月の水いろに明るく冴えている。啼かぬ雁がしずかに渡る、啼く雁よりも啼かぬ雁のなんと秋らしいものかげだろう。

と――躑躅ヶ崎の館の高楼にあたって、万籟もねむり、死したようなこの時刻に、嚠喨とふく笛の音がある。

高音ではないが、このすんだ四更の無音界には、それが、いつまでも消えないほどゆるく流れまわって、すべてのものの眠りをいっそう深くさせるようであった。