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ずいひつ しほんたいへいき
随筆 私本太平記
吉川 英治
Read 随筆 私本太平記 (ずいひつ しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,947 characters · 114 screens
太平記寸感
たちどころに多くの投書が編集者をおどろかせる。
古典の地名というものが、地方によっては、すでに廃絶されているばあいもあり、事実まちがっている記録もめずらしくないのである。地名にかぎらず、正直いって、私は「増鏡」や「梅松論」の古典もそうたいして信用はしていない。傍証的に見ているそれらのものばかりか、太平記原典の「太平記」すらも私はうのみにそのままをつかってはいないのである。私は私の解釈による、そして私なりの「私本太平記」を成そうとおもっているにすぎない。(「私本太平記」巻五 世の辻の帖 附録)
太平記寸感
太平記は従来、ずいぶんひろく読まれてきたとはいわれているが、じつは理解の上ではその逆なのではあるまいか。源氏物語の世界ならいつの世代の男女にも心に溶かしてみるのにさしてむずかしいものではない。平家物語の哀歌や無常にしても時と社会を問わずその人間業には共感ができる。けれど太平記となると、はなはだ違う。時代思潮の支配下によって、その読まれ方が根本にちがってくるのだ。とくに現代のひとには、古典中の古典になってしまいそうな遠さである。歴史文学のほうからもとかく敬遠されていた。